心 の 隙 間 か ら 出 て お い で
夜を越えて届くまで
2006-08-06 Sun 08:05
長い夜だった。
旅はまだ始まったばかりなのに、もうおばあさんの匂いは消えていた。
 
婆ひとり
猫の足音
耳澄ます
届いてくるは
遠くの花火

おばあさんの詠う易しい歌が遠くから聞こえてきて、猫は振り返りそうになった。
けれども、そうする代わりに猫は猫の歌を夜に向けて歌い出した。
猫の吐き出した音符が、花火の作り出した輪と共に広がり、落ちた。
すると猫は、次の歌を歌い出した。
その横顔は、花で作られたマイクのように夜の中に光っていた。
月が少し耳を傾けた。



塗り尽くされた夜を越えて
いつか誰かに届くといいな

風が打ち消してしまうから
小さな歌はすぐに消えていくよ

塗りつぶされた夜を越えて
いつかあなたに届くといいな

壁がせき止めてしまうから
すぐに消えてしまうんだ

言い尽くされた言葉を越えて
いつかどこかに届けばいいな

風が打ち消してしまうけど
また別の歌を歌い出すよ

私の歌は気まぐれだけど
それでもいつか届けばいいな

言い尽くせない想いを越えて
いつかはきっと届けばいいな

壁がせき止めてしまうけど
形を変えて歌い出すんだ

私の歌に意味はないけど
それでもどこかに届けばいいな

覆い尽くされた夜を越えて
いつかあなたに届くといいな



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