ミシン目の世界
2006-05-08 Mon 00:19
おばあさんのミシンが立てる静かな騒音も、雨の音が清らかな心地よさでかき消して、猫は今日一日の雨音をすべて記憶しようとするかのように、耳を動かしていた。
おばあさんが手を止めると、ようやくできあがった着物を広げて見せた。
「さあ着てみせてごらん…」
猫の好きそうな、春色の優しい感じのセーターを見る猫の目は好奇に見開かれていた。
その横顔は、ミシンで縫いつけられたワラビ餅のようだった。


ミシン目に沿って
ちぎれそうな夜を歩く
誰かの残した
傷跡のように深く
過去を美化した
色紙のように赤く
切り裂いて
あと一歩で
世界の隙間に
落ちていく

ミシン目に沿って
破れそうな夜を歩く
あなたの残した
爪跡のように深く
雨が交差する
歴史のように儚く
導いて
あと一歩で
世界の隙間に
落ちていく

それでも夜は
引き返せない
不変の時は
世界の汚れた隙間を
欠けた煉瓦で埋め尽くす

だから私はミシン目に沿って
凍りついた奇跡の後を
いまも私はミシン目を追って
こぼれないように
見失わないように
歩いてく

灰色の壁に
あなたの似顔絵を
描きながら
あなたの約束を
地の底に
縫いつけながら

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