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ずっと一緒

「じゃあ、留守番を頼んだよ」
猫に言葉を残しておばあさんは出かけていった。
けれども、気がつくとおばあさんの押し進めるシルバーカーの上に、猫は何事もなかったかのように佇んでいる。
雲の厚みも色も、東の空から急激に濃く増していくのを見て、おばあさんは不安を募らせた。
「ちょっとここで待ってなさい…」
そそくさと家に戻ったおばあさんは傘立の中の一本の傘に手を伸ばした。
なぜだろう、その瞬間、おばあさんの手の甲に猫の右手が乗っかった。
「じゃあ、留守番を頼んだよ」
猫に言葉を残しておばあさんはまた出かけていった。
けれども、気がつくと猫はシルバーカーの上に丸まって、雲の動きを見守っていた。
その横顔は、灰色の傘地蔵のように言葉なく穏やかだった。


雨が降ってもいないのに
私は傘を持ち出したんだ
使うことはなくっても
私はそれでいいと思う

雨は降ってはないけれど
私は傘を持ち出したんだ
開くことはなくっても
私はそれをいいと思う

雨は一瞬も
落ちてこなくても
誰も君を手にしてなくても
重荷になんか感じないよ

もしもその時がきたら
君は頭上で咲き笑い
赤く広がる花びらで
黒い涙を弾き散らす

だから君をつれてくよ
君がいると安心なんだ

雨は一滴も
落ちてこなくても
誰もが両手を開いていても
閉じた君をつれて歩くよ

もしもその時がきたら
君は空と私の間に入り
容赦ない乱れ滝から
私を守ってくれるから

だから君と一緒だよ
君がいないと心配なんだ

ひと時も降ってこなくても
何時も君を手放さないよ

空一面が澄み切って
晴れ晴れ嵐がやってきて
みんなが君を馬鹿にしても
君を置いてはいかないよ
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忘れ物

猫の額よりもおばあさんの家よりも広い通路を通る内に、買い物カゴの中は、春の野菜と猫の好物であふれていた。
海賊のように力強い手つきでカゴをレジに置くと、おばあさんは鞄の中から財布を取り出した…。
けれども、出てきたのは猫その人だった。
おばあさんは、猫を押し戻しながら鞄の奥底を夢中で探っている。
その姿は、あたかも潮干狩りに勤しむ老婆のように見えた。
けれども、あさりは取れず財布もやはり顔を出さなかった。
そして、その代わりに猫が顔を現した。
その横顔は、忘れな草のように何かを問いかけていた。


つまらない行き止まりを
踏み越えて
もう一度
忘れ物を取りに行く
汚れた靴で飛び出して
絶望の淵を彷徨った
まだあの場所にあるのなら

終わらない行き止まりを
乗り越えて
もう一度
忘れ物を取りに行く
汚れた空を突き刺して
滅亡の街を漂った
まだあの場所にいるのなら

無限の人込みさえも
この手でかきわけて
私は行こう

けれどあの道は
もう曲がれない
あの場所に続く道は

宙に浮いたハートは
時の力で捻じ曲がり
記憶を辿る細い道は
昨日よりも折れ曲がる

遥かなる登山家のように
壁と時間をよじ登り
辿って伝って疑って
汚れた鏡を断ち切って

まだあの場所にあるのなら
まだあの場所で待つのなら

無情の人波さえも
この足で飛び越えて
私は行こう

おぼろげな月が
夜明けの空で白く
そして消えていく前に

だけどあの道は
もう曲がれない
あの道だけは
きっと曲がれない
あの場所に
続く道だから

忘れ物は
まだ置いたまま

石の投手

夕日の沈む河川敷で、猫とおばさんは道草をくっていた。
水を弾く音が微かに聞こえてくるのは、遠くで少年たちが投げている石音に違いなかった。
おばさんは一つ石を拾い上げ、少年を真似て投げてみた。
震える手で投げられた石は、少年の未来ほどにも遠くに飛ぶこともなく、それはささやき声が聞こえるほどの場所で落ちてしまう。
けれども、猫はおばあさんを気遣って遠くに視線を投げてみせるのだ。
また一つ、手に取って投げた石はすぐそばで落ちてしまうけれど、猫はそれがまるで見えなくなるまで飛んでいったかのように、素早く首を動かすと、視線を地の果てまで泳がせた。
その横顔は、転がり続ける石のように頼もしくみえた。


夜の大きさに向かって
届かぬ石を私は投げる
ただ沈み行く石を私は投げる

静かな湖に願いだけを込めて
波紋を呼ばない石を
私は投げる

ありあまるほどの石の中
まだ投げていない石がある
だから私はこの石を
震える指先で投げつける

この押し黙った夜の中
まだ投げていない場所がある
だから私はこの石を
届かぬ力で投げつける

この石はもう
投げたかな
そんな気もするけれど
それでもやっぱり投げてみよう

石がまだあり続ける限り
明日もまだ投げていない石を
きっと私は見つけるだろう

この石はもういつか
なぜだかな
そんな気もするけれど
それでもやっぱり投げてみよう

果てない石が眠り続ける限り
明日もまだ投げてない方角を
きっと私は見つけるだろう

だから私はこの右手で
つたない石が伝える何かを想い
欠けた石でも私は投げる
欠片はどこかで合わさって
受け継ぐ誰かに届くことも

だから私は想いを込めて
震える指で石を投げる
小さく磨り減った石ひとつ
私はまたあなたに投げる

みんなの太陽

「今日はまた暑い日になりそうだね…」
おばあさんは、ポツリポツリと雨のようにしゃべり始めた。
昨日までの雨がまるでうそのように、太陽が本当のように顔を出している。
燦々と降り注ぐ日の光ではなく、それはギラギラと照りつける炎のようだった。
シルバーカーの上に開いた傘の下で猫は、炎を凌いでいた。
傘というのは、色々と役に立つものだ…
昨日と違う傘の色を見ながら、猫は少しまどろんでいるようだった。
その横顔は、消えかかった太陽のように小さく丸まっていた。


空を見上げれば
私は優しい太陽に
両手を広げて日光浴

空から落ちてくる
あなたは恐ろしい太陽に
傘を広げて逃避行

空から降り注ぐ
私は愛しい太陽に
心を広げてこんにちわ

空から焼き尽くす
あなたは忌まわしい太陽に
心を閉じてさようなら

優しい太陽は恐ろしい太陽
愛しい太陽は忌まわしい太陽

素敵な太陽光線
無限に広がる宇宙を抱くように
私は光を近づける

不敵な太陽光線
花瓶に群がる幼虫を掃くように
あなたは光を遠ざける

やがて日は落ちて
夕暮れの老いた太陽は
あなたの頬も赤く染めるほどに

優しい太陽は夕暮れの太陽
穏やかな太陽は夕暮れの太陽

鉄くずの森林浴

高くそびえ立つビルは、どんな株価よりも新年の決意よりも高く、雲に突き刺さっていた。
屋上から地上を見下ろせば、動くものはすべて蟻のように細かく見えた。
ここから、飛び下りても猫は優雅に着地するだろうか…。
「もしも私が猫ならば…」そして、私は猫だった。
猫の頭の中で春の空に花が競い咲くように、おかしな空想が駆け巡っていた。
そして、そうする内に時々自分が猫であることさえ忘れてしまう。
食べ物を抱えて、人間たちが上の世界に上がってきた。
太陽が街の真ん中まで昇ったことを、猫は知り、その時猫のお腹が音を立てた。
それは、雲の中から聞こえるカモメの悲鳴のようだった。
その横顔は、ひび割れたガラス窓のようだった。


この森に
木はなくて
人という名の占領者

枯れもできない
鉄の木々
冷たい森
光りを浴びても
伸びない代わり
金を積み上げ 
そびえたつ
花は咲かず
ただ
金だけがなる

私は鉄くずの頂上で
雲さえ
見下ろしている

私は王様のように
シャツ一枚の王様のように
雲よりも無邪気で
雲よりも愚かで

もう
うさぎには
戻れない
あの場所は
もう
遠すぎる

ポタージュ

何度も何度も、おばあさんは何度も念入りに、特製のスープを混ぜ合わせていた。
それは、猫の目から見れば、強力な悪霊を払うために魔力に満ちた杖を手にして戦っている年老いた霊媒師のように見えた。
ようやく戦いを終えたおばあさんは、小さなカップに自分の分を、小さなお皿に猫の分を用意すると、顔の前に置いてあげるのだ。
「さあ、温まるよ…」
けれども、猫は目の前に提出された現実を、それがどんなにおいしいスープであったとしても、すぐには飲めこめないものなのだ。
じっとスープから沸き立つ湯気を、人魂を見るように見つめていた。
その横顔は、夏を見つめる雪女のように冷ややかだった。


傾いた階段の上で
ポタージュを飲みながら
グツグツと コトコトと
ミルクは溶け込んで
コーンは浮かぶ
想い出も浮かぶ

傾いたガラスの中で
ポタージュを飲みながら
コツコツと 切々と
二度三度煮込まれて
コーンは甘く
カーンは恐い顔

たっぷり温まる
勇気は水から湧いてきて
今日が胸を
また通り過ぎていく
冷え切ったカップから
コーンはバラバラになって
冷め切ったカップから
コーンは散り散りになって
昨日に飛んでいく

想いは淡く溶け込んで
可愛い白鳥のように
コーンは浮かぶ
春は白く溶け込んで
紙くずの雪のように
言葉も散った

どうか
もう一度温めて
温もりだけをもう一度
バラバラの想いを
元ある場所に
注ぎ込んで

だからずっと
ずっと冷めないで
あの温もりを
二人限りで

奇跡

同じ場所を何度探してみたところで、結局同じことではないだろうか?
「確かにここにあったはずなんだけどね…」
昨日までは…
蜂蜜を探す熊のように、引き出しを何度も開け閉めして、おばあさんは、猫に意見を聞くように視線を投げかけた。
けれども、猫はテーブルの上に寝そべったまま、身じろぎ一つしなかった。
猫は、自分の居場所があったことで、今は満足しているようだった。
散らかった引き出しの方を、無関心に見つめていた。
その横顔は、無関心を装った侍のようだった。


私は土だった
今はなぜか
いるはずのない場所に
来ている
ここは無だった
今はなぜか
あるはずのないものに
出会えている
これが自然の成り行きか
これが単なる日常か

私は泡だった
今はなぜか
いるはずのない場所に
こうしてやって来た
元は無だった
今はなぜか
あるはずのないものたちに
こうしてめぐり合っている
これが自然のからくりか
これが単なる繰り返し

私は何かだった
そして今は

理由を探すには
あまりに複雑で
理由を決めるには
あまりに単純で

いるはずのない場所の中
あるはずのないものたちが
たしかに私を満たしている

テーマ : 詩・想
ジャンル : 小説・文学

ミシン目の世界

おばあさんのミシンが立てる静かな騒音も、雨の音が清らかな心地よさでかき消して、猫は今日一日の雨音をすべて記憶しようとするかのように、耳を動かしていた。
おばあさんが手を止めると、ようやくできあがった着物を広げて見せた。
「さあ着てみせてごらん…」
猫の好きそうな、春色の優しい感じのセーターを見る猫の目は好奇に見開かれていた。
その横顔は、ミシンで縫いつけられたワラビ餅のようだった。


ミシン目に沿って
ちぎれそうな夜を歩く
誰かの残した
傷跡のように深く
過去を美化した
色紙のように赤く
切り裂いて
あと一歩で
世界の隙間に
落ちていく

ミシン目に沿って
破れそうな夜を歩く
あなたの残した
爪跡のように深く
雨が交差する
歴史のように儚く
導いて
あと一歩で
世界の隙間に
落ちていく

それでも夜は
引き返せない
不変の時は
世界の汚れた隙間を
欠けた煉瓦で埋め尽くす

だから私はミシン目に沿って
凍りついた奇跡の後を
いまも私はミシン目を追って
こぼれないように
見失わないように
歩いてく

灰色の壁に
あなたの似顔絵を
描きながら
あなたの約束を
地の底に
縫いつけながら

シングル

電子紙幣に書かれた数字とアルファベットの入り混じった文字は、おばあさんの目にはまるで暗号のように映ったものだ。
不器用な手つきで16桁のプリペイド番号を打ち込むと、PCからダウンロードが始まり、それは1分と経たぬ内に完了した。
「聴いてみるかね?」
猫の小さな頭に優しくヘッドホンをかけてあげると、猫はいてもたってもいられなくなった踊り子のように、陽気に踊り始めた。
おばあさんの前で踊ってみせる猫は、華麗なダンシングキャットだった。
その横顔は、表紙を飾った猫のように輝いて見えた。


ヒットチャートが
雨の速さで駆け抜ける
天井から屋上まで
甘いメロディーで
星座を満たす
私はそれに見向きもせずに
アルバムを広げて
いつもの一曲を
ゆっくり振り返る

デッドヒートが
夜の儚さで突き抜ける
街角から街角まで
強いエナジーで
バトンを渡す
私はそれに見向きもせずに
アルバムを広げて
あの日の一曲を
いつもよりも
しっとりと振り返る

チャートを連ねた宝箱が
道々を巡って
隣の家まで転がってきても
私はそれに見向きもせずに
ひとりここに残って
古いアルバムを広げよう

もっと遠い空から
雲に針を落としながら
もっと深い海から
謎の鍵を開きながら
あなたを見つけ出す

シングルチャートが
虫の速さで駆け抜ける
私はそれに見向きもせずに
私はそれに気づきもせずに
ひとり視線は雲の向こう
今日も私の一番は
古いアルバムの中にある

テーマ : 詩・唄・詞
ジャンル : 小説・文学

蜜蜂の恋

悪魔に追い立てられるようにして、猫はおばあさんの家の中に逃げ込んできた。
テーブルの上に飛び上がり、椅子から床に駆け下りて、今度はテーブルの周りを駆け回る。
それでも針を隠し持った虫は、追撃の手を緩めることもなく、猫は猫で逃走の足を緩める余裕も、
なかった。
おばあさんは、2メートルもある長い棒のついた虫取り網を持ってきて、猫を助けようと狂ったように振り回した。逃亡者と追跡者の動きがあまりに速かったため、おばあさんの目はすっかり回り、肩で息をついていた。
蜂の巣をつついたような馬鹿騒ぎの中で、ようやくおばあさんの網が獲物を捕らえたかと思われた。
けれども、網の中に納まったのは全体的な猫だった。
猫は網の中で、背中を丸め捕らわれの猫となった。
その横顔は、無実の逃亡者のようにヒゲを生やして途方に暮れていた。


生まれて間もない朝の中に
小さな花が ぽつんと一つ
さじ加減一つで甘くなった
空からの贈り物のように
緩やかな存在は
秘密の蜜を持ち寄って
罪を二人で積み上げた

生まれて間もない森の中で
小さな虫が ぽつんと二匹
手加減一つで罪になった
空からの預かり物のように
許されない存在は
秘密の蜜を貢いでは
一つの罪を分け合った

蜜蜂は見つめ合う
空から地上を見下ろすように
甘い言葉を紡ぎ合い
虫の鳴く声で透き通る恋で

空っぽの夜がやってきて
空の真ん中に 星ひとつ
もう二人の巣も
空っぽになった

月から地球を見守るように
蜜蜂は見つめ合う
甘い言葉を紡ぎ合い
虫の鳴く声で好きと言える愛で
さよならと告げた

テーマ : 恋愛詩
ジャンル : 小説・文学

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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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