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春のマフラー

春は冬の向こうからゆっくりと牛のように近づいてきていた。
けれども、冬の残党は必死で牛の足をひっぱり、後ろ向きに歩ませようと抵抗しているようだった。
玄関が開き、アメフトの選手がもたもたと入ってきた。
けれども、よく見るとそれはセーターを5枚着込んだおばあさんが戻ってきたのだった。
猫は、安心したのか大きくあくびをしてみせた。
それは、戻ってきた者への笑顔だったのかしもれない。
その横顔は、空を見上げるクロッカスのようだった。

あなたがいるから
戻ってきたよ
一人の
アンコールで
また
戻ってきたよ
今日だけ一緒
一度だけの
今日だから

あなたが呼ぶから
帰ってきたよ
春の
コンクールに
招かれて
遊びにきたよ
私だけが冬
一日だけの
冬だから

ぶり返す季節のように
重ね合う想いのように
星の瞳の下に
不意に戻ってくる
今日だけ一緒
でも忘れないで
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どこへ

夜と風の入り混じった交差点は、人と車と忍耐とため息が交差して一つの絵を作り出していた。
その絵の中では、猫が夜風に背中を丸めながら春を待つように信号待ちをしていた。
なぜ、猫は赤が青にかわるのを待つのだろうか…
そして、横断歩道の向こうで猫を待つのは何だろう…
タクシーの眩さは、猫の目を細め、その背中をより猫背にさせた。
車は止まり、人々は一斉に歩き始める。
けれども、猫は動かなかった。ただ絵を見ている猫だった。
その横顔は、十字路に立ち尽くすドラキュラの表情に似ていた。

みんなどこへ行くのだろう
帰る場所があるのだろうか
右へ曲がったり 左に曲がったり
人はどこへいくのだろう
荷物を抱えたり
橋を渡ったり
ライトは人と
人の作り物を照らす

みんなどこへ行くのだろう
戻る場所があるのだろうか
手と手をつないだり
背中に人を背負ったり
人はどこへ行くのだろう
何万年の荷物を抱えて
何千年の川を下って
知恵は人と
人の作り物を壊す

人はどこへ向かうのだろう
向かう場所はあるのだろうか
理想を抱えたり
不安におびえたり
それでも進むしかないの
みんなどこへ行くのだろう

顔の文字

猫は符号で作られた泣き顔のような横顔で、猫の手ほどの電話機をパカパカと開けたり閉めたりして、操作していた。
あるいは、遊んでいたのかもしれない。
その小気味よい音が、猫は好きだった。壊してしまっても良いと思った。
壊れるほど遊んでいる時、突然それは音を立てた。
その音は、郵便配達のベルのようだった。

電波に乗って
飛んでくる
鳩の運ぶ手紙より
速く

文字の向こうで
あなたは 微笑んで
転げまわる
インクは滲まない
文字は乱れない
それを顔で 補って
文字で笑って 顔で泣く

画面の向こうで
あなたは 涙ぐみ
泣きじゃくる
インクは途切れない
文字は汚れない
それを顔で 補って
文字で踊って 顔で泣く

文字の並びに
顔がくっついて
言葉の終わりは
顔が引き継いで

3000年の時を越えて
いま顔でつながってる

ただじっと

闇が翼竜の翼のように、街を包み込む中、店は夜に浮かぶ宝石のようだった。
猫はそれを火星人の基地と呼ぶ、そのコンビニの前に猫はいた。
基地の数が多すぎると、猫は思った。
今では、星の数よりも、自分たちの数よりも多くなってしまった。
猫が場所を間違えていたとしても、やむを得ないことだったかもしれない。
けれども、疑うには春はまだ寒すぎたのだ。
猫は、首を縮めてその場に居座り続けることを選んだ。
その横顔は、ひねくれたおみくじのようだった。


ただじっと 待つ1分
ただじっと 待つ一人
通り過ぎる 人影の中
立ち止まる 自分ひとり
置き去りの人形のように
街角の銅像のように
体の中で
何かが よぎり
横切り 突き抜ける

ただじっと 待つ永遠
ただじっと 待つひとり
素通りしていく 靴音の中
立ち尽くす 自分ひとり
書き置きの手紙のように
空想の産物のように
風の中で
何かが よぎり
横切り 突き抜ける

ただじっと
過ぎ去るのは自分以外
不安という名の
植物が
胸の中で
ふくらんでいく

ただじっと
ずっと ずっと
待っている

詩に飢えた狼

気がつくと、猫は無数の一匹狼の中に囲まれていた。
それは狼の群れではなく、それぞれに一匹ずつであり、無数という中では、ありえないくらいに互いに背を向けていた。
無数の遠吠えが、無数の一匹狼のアゴの中で韻を踏んでいた。
その圧倒的な光景の中では、猫も仕方なく猫の遠吠えをしてみせるしか生きる道はないのだ。
猫は、耳を緊張させながら、狼のように叫んだ。
けれども、その声は、セミの合唱の中に入り込む、さおだけ屋のブルースのように響いた。
その横顔は、シャンソンを歌うフクロウのようだった。


詩に飢えた 狼が野を駆ける
狭い巣穴を 抜け出して
聞き耳立てて 駆け回る
蜜を求める蝶のように
時を越えるイルカのように

詩に飢えた 狼が街を駆ける
血に飢えた 蛮人に追われて
癒しを求めて 駆けてくる
うそのように 逃げ出して
三日月の 足りない色を
言葉で 埋める

詩に飢えた 狼が夜を駆ける
喉は 言葉によって渇く
詩を求め 何度もそこに駆けてくる
星のように 近づいて
満月の 欠けた部分を
言葉で 満たす

詩に飢えた 狼が詩を駆ける
水を求める絵の具のように
絵になった鳥のように
ただ 詩を求めて

最初の最終電車

すべての列車が通りすぎたホームで、活躍するのは猫だ。
酔っ払いの残していった、鞄、財布、靴といった物たちを駅長のとこまで届ければ、その代わりに、面倒見のいい駅長は、猫のために冷たいスープと暖かい毛布を用意してくれるのだ。
猫はいつものように、ベンチの上に横たわった酔っ払いのズボンから器用に財布を抜き去った。
その瞬間、男は死体が起き上がるように一瞬正気に帰り、猫の方を見たようだった。けれども、猫が無言のまま目を牙のように光らせると、男は死体のように元に戻った。そうして、無事に獲物を持ったまま駅長室に入ると、そこでは駅長も眠っていた。
仕方なく、猫も一眠りしはじめた。財布を枕に…。
その横顔は、正面を向いた光り列車のようだった。


もしも私の部屋が
13番ホームだったら
朝に乗り遅れることは
ないでしょう
もう毎日のように
遅れることも
ないでしょう
けれども私は
ただ乗り遅れない
ためだけに
自分を犠牲には
できないのです

もしも私の部屋が
24番ホームだったら
始発のベルが
私に出発の時を
告げるでしょう
けれどもそれは
私の旅立ちの
時とは違うのです
私は乗り遅れることを
選ぶでしょう

乗り遅れ 乗り過ごし
また乗り遅れるでしょう
乗るべき列車
乗るべき時は
自分で決めて
旅立つのです

並木道幻想曲

複雑に入り組んだ道は、方向感覚に長けた猫をさえも、迷子に陥れようとしていた。それは、まるで千羽鶴の描く☆の一筆書きのように複雑な道だった。
あるいは、心の隙間に春と雪と月の欠片が入り込んでくるような複雑さ…
もしも、この道が試験問題だとしたら、問題を作ると同時に解き始めなければ間に合わないような複雑さ…
けれども、あまりに複雑すぎたため、猫にはもはや単純に見えていたのだ。
そして、猫は難問を突破して、いつもの並木道に戻ってくると一息ついた。
その息は、この夜にふさわしくなく白かった。
その横顔は、答えのない方程式を解く猫のようだった。


坂道 抜け道 通り道
並木が踊る 並木道
あなたと共に 通りましょう
行列のできる 並木道
けれど その先には
何もない

坂道 雪道 迷い道
並木が歌う 並木道
あなたと共に 迷いましょう
行列のできる 並木道
けれど その先には
何もない

坂道 寄り道 分れ道
並木が並ぶ 並木道
あなたと共に 別れましょう

サイボーグ

「物どもかかれ~」
黒の狐の号令で、まず物の王様である置物が猫に襲いかかった。
置物は猫の前にじっと佇んでいる。猫は全く驚かなかった。
続いて割れ物が猫に襲いかかった。
猫の前で砕けて割れて散ることで攻撃は終わった。
傷ついたのは物の方だった。
最後に生ものが猫に襲いかかったが、猫の口に納まるだけで消滅した。
黒の狐はふてくされて帰って行き、置物は依然として置物のように佇んでいた。
けれども、その影から得体の知れないものが現れた。
それは、敵か味方か、物か何かさえもわからなかった。
恐る恐る、猫は不安に駆られながらも近づいていく。
その横顔は、謎の贈り物に忍び寄る子猫のようだった。


ここでは
氷りつく 言葉こそが
最大の暖房具
温かさを
よりいっそう
引き立たせてくれるから

暖房に群がる
サイボーグ
最高の才能と
裁縫によって
作られた
鉄と心の融合
生身の寒さを
感じる
新しい存在
羽毛布団のように
おまじないのように
温かい言葉を
かけてくれる

明日の空

3月の真ん中にある空気が作り出した灰色の空の下で、すっかり寂しくなった小さな雛あられを、猫はおばあさんの用意した皿の中で食べていた。
ポップコーンがロックビートと共にはじけ飛ぶような音を立てた後、皿を空っぽにすると、猫はひらりと背を向けて帰って行く。
「じゃあ、また明日…」
おばあさんは、猫の名を呼ぼうとしたが、まだ名前はなかった。
その時、突然我慢比べが終わったかのように、大きく冷たい雨粒が落ちてきた。
猫は、一瞬足取りを緩め、後ろを振り返った。
その横顔は、この世の終わりのようだった。


明日は
晴れるかな
向かう 方向は
別々なのに
それでも
気にしてる
空は人よりも
大きいから

それでも
空は
ぼくらの空では なくなってゆく
話すほどに 離れていく
横顔のように

明日は
晴れるかな
それでも
まだ
気にかけてる
空はこの街より
大きいから

けれども
空は
二人の空では なくなってゆく
話すほどに 離れていく
足並のように

ぼくの見る空と
きみの見る空は
もう遠すぎて

また明日 
またいつか
その差は
永遠に離れている
空と空のように

小さな宇宙

3月の雲は、人間の夢を乗せた渡り鳥の翼のように広がって、その下の小さな街を見下ろしながら、ゆっくりとした速度で流れていた。
花もゆっくりと咲き始め、猫もそれ以上にゆっくりとした足取りで戻ってきた。
ちょうど街を半周したくらいだろうか…。
けれども、猫は宇宙を一周したかのように疲れ、足を引きずっている。
吸い込まれそうな空を見上げて、大きくあくびをしてみせた。
その大きさは、宇宙を呑み込むかと思われた。
その横顔は、雲の上から宇宙花火を見る猫のようだった。


ロケットにも乗らずに
宇宙一周の旅に出た
小さな旅から
戻るあては まだない

先の見えない
ふくらみの中で
円を描く あてもない
たどり着いた
最果ての地は
終わってみれば
終わってない
宇宙の広さが
胸を打つ

あなたの付け足した星は
まだ あんなに明るく
まだ あんなに遠くに
遥か宇宙の偶然のように
これが現実か
すべては幻か

宇宙の広さが
また胸を打つ

ほんの始まりにさえ
まだ届いては
いないんだ

未来の足跡

それは、天国へ続く階段ではない。
おばあさんの家に続く階段だ。
それでも、猫が過去について気にするようになったのはなぜだろう…。
この階段を登る時でさえ、一歩ずつ後ろを振り返り、過去を確認することなく、階段を登ることはできないのだ。
そして、それはたった今自分が歩いてきた過去だったのに…。
猫は、一足歩むとまた、振り返った。
その横顔は、いつか見た猫のようだった。


足跡を 消しながら
過去に向かって
歩いてく
ここは どこ

いつも 真実は
3メートル
離れなければ
見つからない
けれども
どこかで
見つけて ほしかった
わたしは どこ

足音を 消しながら
過去に向かって
歩いてく
ここは だれ

いつも 真実は
1000日 過ぎなければ
感じない
けれども
どこかで
見つけて いたかった
きみは どこ

空っぽの空き缶

捨てられた空き缶は、今や猫の足下にあった。
男は、空き缶を奪おうと猫の前に立ふさがっている。
けれども、猫は奇妙なフェイントで男を抜き去っていった。
猫の個人技が止められることは、稀なのだ。
そして、今日も猫のドリブルはやはり痛快無敵だった。
もしも、この土の上が真っ白いノートだとしたら、いかなる文字もインクも寄せつけない…。
そんな感じだった。そして猫の描くドリブルは誰にも解けない暗号だった。
あちらと思えばこちら、こちらと思えばやはりこちらだったりする…。
男を抜き去った後も、まだ空き缶と一体となった猫のドリブルは延々と続く。
その横顔は、好奇心に満たされた空き缶のようだった。


空っぽの 空き缶のように
空虚に 満ち足りていく
銀貨だけ 抜きさって
入れ物を 残して
去っていく
邪悪な
親切のように

海の盗賊が 
投げ捨てて行った
千切れた 空き缶
中身を 持ち去って
私を 置いていく
影だけ 残し
あなたは
去っていく

夜の高速を
駆け抜けていった
空洞の タイヤ
すべてを 抜きさって
私を 空っぽにして
置いていく
あとはだだ
冷たい音をたて
転がっていく

真夜中のニュース

少し人恋しく思ったのか、猫はリモコンのスイッチをぷちっと押してみた。
画面の中では、人間が胸に魚のような物をぶら下げて深刻げな面持ちで、言葉をしゃべっていた。それが何についてしゃべっているのかは、よくわからなかった。どうも最近、人間たちのしゃべっている言葉がみな同じように聞こえてならないのだった。
猫は無関心に画面から目をそらすと、リモコンを突っつきながら、回転し始めた。素早い猫のターン…。パンダの手拍子で転がる赤いサイコロのように…。
そうこうする内に、スイッチが当たりテレビは消えてしまった。
けれども、猫はそれを気にもしなかった。
猫の時間は、とても限られているからだ。
猫はまだリモコンと戯れている。
その横顔は、大辞典の中で踊る小さな文字のようだった。


それが本当に ニュースなの
また今日も 大事なニュースが
埋もれていく
推測と憶測で成り立つ物語

それが本当の ニュースなの
あなたの瞳は 震えてるのに
そんなニュースは 伝わらない
過去と半生を振り返り
気づけば昨日と同じ物語

人目を引くセンセーショナル
あなたの時間は
遠慮もなく 奪われる
憶測と好奇心で固めた物語
あなたの声は 訴えてるのに
あなたの心が 震えてるのに

心だまし

まったく油断のならない、世の中になってしまった。
ビスケットを取ろうとして箱の中に落ちてしまったのだ。
哀しみの湧き出る温泉から抜け出るように、猫は箱からようやく抜け出した。
いつからだろうか…。
ビスケットを食べる時、人の親切を考えることなく、親切な顔をした子供じみた罠の存在を考えることなく、ビスケット一つ食べられなくなってしまったのは…。
それは自分の生まれるずっとずっと前のことだった。
まだティラノザウルス・レックスがいた頃かもしれない。
けれども、猫には自分が生まれるより前のことを振り返ることはできなかったのだし、もしできたとしても途中で飽きてしまっただろう。
自分の仲間が転げ落ちないように、猫は、闇のように深い箱の中を、土で埋め始めた。
そして、完全に埋め尽くされた後も土を盛り上げて、土の山を作っていたので、傍から見るとまるで猫が泥遊びをしているように見えた。
その横顔は、玩具箱をひっくり返して遊ぶ子猫のようだった。


大人の用意した びっくり小箱
ぼくらは ちっとも驚かない
そんな子供だまし
ぼくらは 心おどらせない

大人の用意した ちっちゃな収納箱
ぼくらは ちっとも納まりきらない
そんな子供だまし
ぼくらの 心閉じ込めれない

大人たちの作った 壮大なうそ
ぼくらは ちっとも騙されない
そんな子供だまし
ぼくらの 心操れない

疑いの剣で 
箱を刺す
いつか
本当の
宝箱
探し出す

いつかの友達

校庭は、久しぶりに帰ってきた猫をまるで無関心に出迎えてくれた。
地球に似た形をした、色んな大きさのボールが飛び交い、それは今日も地球が相変わらず回っていることを、猫に思い出させた。
そこで遊んでいる子供たちは、依然として同じように子供たちだった。
この場所に戻ってくれば、天気や季節が変わっていることを除けば、いつも変わらぬ風景が待っていて、そのせいで猫は時間の経過をまったく意識しないことができたのだ。
そうこうする内に、自分の顔くらいの大きさのボールが足下に転がってきた。
それが何のボールかなどということは、猫に関係あるはずもなく、早速猫らしいスピーディな個人技でもってドリブルを開始した。
一人の子供が猫の前に立ふさがる。
けれども、その股の間を猫はすり抜けて行った。
その横顔は、空の障害物競走に興じる猫のようだった。
そしてそのスピードは、雲の上を駆ける猫のようだった。


久しくの 時を経て
いつかいた 人に会う
庭に 雪が積もるように
話の雪が
降り積もる
子供は 成長し
大人は 年をとる
真の姿は 誰もみえない

うそに似た 時を重ね
いつかみた 友に会う
肩に 雨が降り注ぐように
話の雨が
降り注ぐ
ある者は 若返り
ある者は 年老いる
心の内は 誰もみえない

自分のいない 場所でさえ
世界は 動いているらしい
あの宇宙の 向こうでも
きっと誰かが 手を振って
きっと誰かは 手を振って
同じ事を 思ってる

目覚めの時

将来に太鼓判を押された猫のような横顔で、猫はコーヒー缶に頭を乗せて、
眠っていた。
コーヒー豆が雪ダルマの頭の上ではじけるような目覚まし時計の音が、
午前7時を告げた。
猫は、朝に白黒つけようとするように素早く一回転した。
静まらない静電気の中で、オセロが裏返ったように…。


古びた目覚まし時計が
時間を急がせる
けれど私は
もっともっと眠りたい
新しい自分が
私の中で目覚めるまで

眠れる時に
眠れることはなく

邪まな 長針と短針が
時間を刻みとる
けれど私は
まだまだ眠れる
私の奥底で
あなたを愛する才能が
目覚める時まで

眠れない時に
眠りにあこがれぬことはなく

世界の傷口が 癒えるまで
もう一眠り

太陽屋敷

午後の教科書通りを駆け上がるように、猫は夕暮れの緑ヶ丘を駆け上がってきた。あるいは、夕日ヶ丘だったのかもしれない。
猫は、この丘を駆け上がるのが好きだったし、それより好きだったのは、そこを駆け上がった後、小さな3本木の真ん中で一休みすることだった。
丘の上から眺める夕日がとても好きだった。
レモンからオレンジ色に変わっていく夕日と、色を失っていく街の様子をひとりでぼんやり眺めている時、猫はいつも空っぽの猫だった。
自分のテリトリーのことも、帰る場所のことも、今日一日何も食べていなかった、などということも全部忘れて…。
キャンディのように溶け始めた夕日を、猫はまだ見つめていた。
その横顔は、真っ赤なオレンジを素顔で見つめる猫のようだった。


陽気さの欠片を
かき集めて作った
太陽屋敷
そこまでの 陽気さに
私はとても 耐え切れない
しみじみと 沈みゆく
しじみ汁の中に
お日様が沈みゆく

陽気さの欠片を
寄せ集めて作った
太陽屋敷
そこまでの 陽気さは
私を押しつぶすだろう
音のない夜の中に
逃げ出すんだ
しみじみと 沈みゆく
しじみ汁の中に
お月様が沈みゆく
雪の思い出と
一緒になって

風と青

風の中で揺らめく旗の中で、猫の目にもその旗の文字は読み取ることも、
できなくなっていた。
「休む間もなく営業します」
きっと、そのようなことが書いてあったと猫は思った。
けれども、猫には風が泣いているように思われることの方がより気にかかった。
そして、今にも猫は風にもらい泣きしそうだった。
「この風はいったいどうしたというのだろう…」
猫は、疑問を浮かべた表情で風を見つめていた。
その横顔は、決して割れることのない意志の強い風船のようだった。


留まるには 空が青すぎる
今の 私に
この空は
とても とても
青すぎる
歩き出さねば

歩くには 風が強すぎる
今の 私に
この風は
とても とても
強すぎる

立ち止まるには 
やはり 空が青すぎる
雲は 青く広がって
私は 四次元に広がった
進みましょう
あの風の 向こうまで

酒の魚

魔術師は冬の夜の海辺の向こうからやっきた。
ほんの少しの傾斜の坂の途中で立ち止まり、
夜の静寂の中の魚のほんのわずかの疑問符のため息に、耳を澄ましながら。
そんな奇妙な魔術師が、人類の運命を託すように、あるいは白く温かいご飯にふりかけをかけるように、魚のため息に魔法をかぶせると、
水を得た魚が酒を飲みすぎた魚に変わった。
けれども、それ以上のことは何も起きなかった。
「人生に酔うほど簡単じゃないんだ」
千鳥足で泳ぐ魚の後を、魔術師は千鳥ヒレで泳ぐように歩いていった。


ドレミファの空を 越え
遺憾の意の 散らばった
でこぼこ道を 歩いてく
すっかり細くなった 長い道
遺憾の意を 蹴飛ばして
分岐点で 栗ひろい
もうどっちでもいいんだし
でこぼこの ソラシド道を
みかんのみ 蹴飛ばして
昨日の日曜 探して歩く

日曜の校庭

校庭はまるで日曜日の校庭のような横顔をしていた。
猫は日曜の校庭を我が物顔で駆け回っている。
「誰もいない、誰一人いない…」
猫がそう思ったかはわからなかったが、それでも土曜よりも木曜よりも、猫は元気に、まるで雲の上での水上スキーのように元気にはしゃいでいたのだ。
日曜の猫は疲れるということを知らなかった。あるいは知ろうとしなかった。
その横顔は、おばあさんの家で雪の庭を駆け回る柴犬のようだった。


無人の占拠する 学校の中
無人の校長が 
無人の生徒たちの 前に立ち
無人の校長が 
無言の挨拶を 始めた
無人の生徒たちは
無言でそれを 見守っている

ある者は無言で
ある者は無言で
またある者は無言で聞いている

ある者は時に無言で
ある者は時に無言で
またある者は時に無言で

無人の占拠する 学校の中
無言だけがこだまする
無人の生徒の一人が
無言で耳を押さえた
猫も無言で 駆け回ってる
そんな日曜の 校庭

猫の花

ワビスケは、小さな花屋の店先でその名前の通り、いかにも寂しげにたたずんでいた。その花を見る時、それがどんなに能天気な一日であっても、誰しも詫び寂びを思うことなく、あるいは古い知人を振り返ることなく、その花を見ることはできないのだった。
そして、猫も同じく寂しげに椅子の上に寝そべっている。
あるいは、侘しい夢をみているのかもしれない。
おばあさんのその椅子で、おばあさんが帰ってくるまでその場所を、自分の陣地として独占することができるのだ。
それは猫にとってはひとつの喜びだった。
自分に与えられた居場所があるということは…。
けれども、猫はおばあさんの帰りを心待ちにしているのか、あるいは全く気にもしていないのか、それは猫にしかわからないことだった。
猫は少し、ワビスケのように首を傾けたように見えた。
その横顔は、遊べない遊園地で朝を待つ花のようだった。


いつか 来てくれたら
うれしいな
でも 来てくれなくても
それでも いいな
それでも 私は伝えたい
ただ 伝えるだけの愛
あなたの笑顔が
私の笑顔

いつも 来たくれたら
うれしいな
でも 来てくれなくても
それでも いいな
それでも 私は贈りたい
ただ 贈るだけの愛
あなたの元気が
私の元気
猫に贈る 花のように

寂しいひな祭り

3月だというのに、街は2月下旬並みの寒さを保っていた。
あるいは、真冬の寒さを包み込んだパイの中に、3月がまだ包まれていた。
そして、2月は遥か昔のことだった。
よそよそしいそよ風が吹き付ける階段の上に、おばあさんの置いていった小さなあられが、猫の方を向いている。
雛のような顔で見つめる丸い粒を、猫は自分の年の数だけ食べなければならないような気がした。
けれども、同時にそれは何かの思い違いであったような気もしたのだ。
いずれにせよ、誰がそんなことを気にするというのだろうか…。
猫は考えることを止め、カリカリと音を立てて食べ始めた。
それは、春の足音をかき消す馬の蹄の音だった。
その横顔は、終わらない店じまいの中で客を待つ店主のように楽しそうだった。


灯りをつけても
誰もいない
今日は
寂しい ひな祭り
みんな
どこかに
行ってしまった
音楽隊も 
太鼓の音も
消えてしまった
聞こえてくるのは
鈴の音
階段の上に
猫が一匹

灯りをつけても
誰も見えない
みんな
仕事に
行ってしまった
玩具の兵隊も
笛の音も
消えてしまった
聞こえてくるのは
鈴の音
階段の上に
ただ ひとり
今日は
寂しい ひな祭り

哀しいハッピーエンド

二人はそれから一生の間、仲良く暮らしました。
いつまでも…
「めでたし、めでたし」
おばあさんは、物語を読み終えると静かに本を閉じテーブルに置いた。
結末は幸福なのに、猫は物語の結末を素直には喜べなかった。
素直に喜ぶということが、いかにも自分らしくないと思ったわけではない。
ただ、いつまでも物語の中で、おばあさんの声の向こうの世界の中で、夢見心地でいたかったのだ。
まるでそこに本当の自分の住処があるかのように…。
猫は、うまい話に乗るようにテーブルの上に飛び乗ると、閉じられた本の上を、
カリカリとひっかき始めた。
それは、魔女によって閉ざされたお姫様の心を、ひっかいているように見えた。
その横顔は、果てしない行き止まりの中で白昼夢をみる人魚のようだった。


はじまりは 悲しいハッピーエンド
これが最初で最後
あなたは そう言ったから
そして 終わりは
終わらないハッピーエンド
終わるのは 哀しいから

終わりなのに 繰り返す
繰り返し 繰り返し
続いて繰り返す ハッピーエンド
まるで 繰り返し文のように
狂った幻のように

終わりなのに 繰り返す
繰り返し 繰り返し
続いて繰り返す ハッピーエンド
まるで 繰り返し文のように
優しい悪夢のように

終わりなのに 繰り返す
繰り返し 繰り返し
続いて繰り返す ハッピーエンド
まるで 繰り返し文のように
狐の仮装のように

それでもいつかは
終わるんだ
それは 本当の終わり
そういうことに
なっているから
ハッピーでも 哀しくても
いずれでも
そういうことに
なっているから

別れの宝石

土砂降りが突き刺すピッチの上で、キッカーは宝石を置くようにボールをセットした。前には壁が4人、5人、冷え切った焼け石のように立ちふさがる。
「これが最後のゴールになるんだ」
キッカーは、白い砂を踏むように2、3歩の助走をつけると、左足を鋭く振りぬいた。壁は一切邪魔をしなかった。むしろ進んで道をあけたようさえ見えた。
ゴール右隅に吸い込まれそうなボールに、キーパーの反応した指先が届く。
けれども、涙が目からこぼれおちるように、キーパーの手からボールがこぼれおちた。そして、キーパーは本当に泣いていた。
キッカーも、他の皆も、空と同じように泣きじゃくっていた。
土砂降りの雨が、まるで思い出までも洗い流すように降り続く。
それは、一段と激しさを増していくように思われた。
けれども、雨の音に混じって、終わりを告げる笛が鳴った。
あまりにも、遠く、過去からあるいは空の上から聞こえてくるようだった。


土砂降りのピッチの上で
地球を追っかけまわす
ぼくらは
子犬の気持ちを理解する
濡れ衣を着せられたように
ずぶ濡れで なのに罪はない
あるのは 別れ
それは別れの雨でもあった
けれども弱音ははかないよ
ここは外なんだから
ぼくらは外に飛び出したんだ
気持ちが震えるように
ネットを揺らしたかったんだ
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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

最近のTB / 返詩
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『折句ストレート』

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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