飛行
2007-09-10 Mon 01:43
「ここから飛び下りたらどうなるかな?」

ネコは笑いながら、こっちを見た。
4階の教室に残っているのは、二人だけだった。
校庭をゾロゾロと横切っていく、白い群れが見える。

「私が猫だったら、クルクルと廻って平気かな?」

憧れを込めて、ネコは言葉を続けた。
もしも何かだったら……
私たちは、そんな言葉あそびが好きだった。
そうして空想を泳いでいると、いつも時間は何気なく吸い取られていった。

「ジョン・マクレーンなら、3階の窓を破って助かるかも」

私も、主人公になりたかった。
物語は何でも良かった。

「ついでに学校全部を壊してくれたらいいのに!」

ネコは、半分本気だと思った。
死ぬほど嫌なことだってあるのだ。

「ねえ、鳥だったら……
 鳥は、怖くはないのかな?」

鳥が、遥か校庭の上空を優雅に舞っていた。
人でない姿を、ネコはまた憧れるように見つめながら大きく溜息をついた。
私はノートを一枚千切って紙飛行機を折ると、勢いよく窓から投げた。
夏の風に乗って少しの間上昇し、色のない空間を舞った。
真っ白い鳥のように……。

「なれるよね、
    ……   これから何にだって」

窓という窓を震わせるように、チャイムが鳴り響いた。
私たちは、もう行かなければならなかった。





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ホームルーム
2007-07-24 Tue 21:59
「今日の議題は何だ?」

先生が、
去年のことを思い出す鬼のような顔で問いかけた。

「まだ、決まっていません」

学級委員が、言い切った。
先生は、ポカンと口を開ける。
今だ、とばかりにみんなは一斉に消しゴムを投げつけた。
無数の消しゴムミサイルが飛び交って、まるで千秋楽で舞の海が優勝したように美しかった。

「決まってないとはどういうことだ!」

消しゴムをクジラのように吐き出しながら、先生は反論した。
決まっているのが当然だというような、ニュアンスが感じられる。

「今から考えるしかないと思います」
誰かが、言った。

西へ流れる雲のように、前向きな言葉だった。
僕らは、考えた。
今、話し合うべき議題を投げ合い、出し合い、潰し合った。
まるでK-1のリングのように、見守る女神はいなかったけれど僕らは決して手を抜かず足を止めて戦った。
時間が言葉の上を、ゆっくりと、あるいは猛スピードで過ぎていく。
空がもうすぐ、夏の雨をつれてくるだろう。
与えられた議題がないから、僕らは考え続けるしかなかった。

「何だっていいじゃないか!」

壊し屋ケンが吠えた。
みんなが瞬間言葉を失った。
先生さえも……。

世界一大きな議題の入ったオルゴールが鳴り始めたように、ゆっくりとチャイムの音が聴こえてきた。
今日の、ホームルームはここまで。


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世界の梅干し
2006-02-15 Wed 12:25
「世界の梅干しはそんなに甘くはないぞ」
木登りの途中で先生が叫んだ。
言葉の意味を考えるよりも速く、無意味さが駆け抜けていく時、
12時間目のチャイムがはるか遠くから聞こえてきた。
傷ついたクジラの鳴き声のようだった。

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間違いのなる木
2006-02-10 Fri 16:00
「君たちの木登りは間違いだらけだ」
木の上から先生が言った。
「なぜなら、私の教え方そのものが間違いのなる木なのだから」
79時間目のチャイムが木々の間にこだました。
木が呻く声のようだった。

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1月の足跡
2006-01-31 Tue 12:37
「世の中は常識だ公式だとがんじがらめになっているけど、
それを一つ一つ壊していくことが日本のお正月やないかな?」
木登りの手足を休めて、先生が言った。
2月が逃げるように、1月がものすごい速さで過ぎ去っていった。
あたかも猿が木から落ちるような、速さだった。

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途切れ途切れの結論
2006-01-25 Wed 17:07
「結論から先に言うが・・・」
木登りの途中で先生が言った。
それは合理的なやり方なのだ。
過程を楽しんでいた木登りが懐かしく思い出される。
44時間目のチャイムが途切れ途切れに鳴った。
壊れかけのチャイムのようだった。

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まるで人間
2006-01-15 Sun 15:50
「わしは人間じゃ!! 」
先生はまるで人間のような顔をして言った。
彼はガラスの心を持った鶴のような横顔で、
35時間目のチャイムを聞いていた。
すべてがあべこべになっていくのが感じられた。

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招き猫の招待状
2006-01-13 Fri 12:55
「君たちに教えることは何もない!!
 もはや私は教師でさえない」
自分の耳をも疑う言葉だった。
いったい目の前に立っている者は何者なのだろう?
55時間目のチャイムが静かに鳴った。
振り返った招き猫の鳴き声のようだった。

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地球は繰り返し回る
2006-01-11 Wed 17:30
「繰り返しになるが」
先生が繰り返した。
木登り専門学校の先生はみんな猿だった。
毎日の繰り返しだけが木登りを上達させるのだという。
72時間目のチャイムが静かに鳴った。
瑠璃色猫の鳴き声のようだった。

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