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酒の魚

魔術師は冬の夜の海辺の向こうからやっきた。
ほんの少しの傾斜の坂の途中で立ち止まり、
夜の静寂の中の魚のほんのわずかの疑問符のため息に、耳を澄ましながら。
そんな奇妙な魔術師が、人類の運命を託すように、あるいは白く温かいご飯にふりかけをかけるように、魚のため息に魔法をかぶせると、
水を得た魚が酒を飲みすぎた魚に変わった。
けれども、それ以上のことは何も起きなかった。
「人生に酔うほど簡単じゃないんだ」
千鳥足で泳ぐ魚の後を、魔術師は千鳥ヒレで泳ぐように歩いていった。


ドレミファの空を 越え
遺憾の意の 散らばった
でこぼこ道を 歩いてく
すっかり細くなった 長い道
遺憾の意を 蹴飛ばして
分岐点で 栗ひろい
もうどっちでもいいんだし
でこぼこの ソラシド道を
みかんのみ 蹴飛ばして
昨日の日曜 探して歩く
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偽りの証明写真

「私の証明写真は明らかに私と違っていたんだ」

偽りの看板を売りさばく道具屋の主人のような横顔で、
似顔絵師は、魔術師の似顔絵を描き終えた。
けれども、似顔絵には、真実が浮かんでいる。
魔術師は黒板の中に緑を見るように、
似顔絵の中に魔法の微笑を浮かべると、
そのままの似顔絵が偽ものの証明写真に変わった。
似顔絵師は消え去り、魔術師は恐る恐る写真を手に取った。


私の小さな 証明写真は
何も明かすこともなく
似顔絵ほどにも
微笑むこともなく
ただ 餅のように
そこにある 生活のように
張り付いている

私の小さな 証明写真は
真実を告げることもなく
似顔絵ほどにも
悲しむこともなく
ただ 家のように
そこにある 骸骨のように
張り付いている
違うんだ
私は
本当は
もっと 違うんだ

この冬の私の森の中の太陽

魔術師は、まるで誰かに呼び止められたかのように後ろを振り向いた。
振り返った先にあったのは、自分が歩いてきた昨日だった。
魔術師は自分を追いかけてくる昨日と昨日の自分に向かって、魔法の言葉を投げかけた。
雨の音に混じって、昨日の手前側が明日の向こう側に変わった。
けれども、それ以上のことは何も起きなかった。
「狐を化かすほど簡単じゃないんだ」
彼は昨日に追い抜かれないように、森の中を駆け出した。


私の森の中の 太陽は
白い雪の降る 夜の中でも
赤く 輝いている
誰にも奪うことは できないのだ

私の森の中の 太陽は
ひどい雨の降る 夜の中でも
本当は 輝いている
誰にも汚すことは できないのだ

私の森の中の 太陽は
本当は ずっと遠くにあるのだ
手に触れることも できないのだ
それでもいつも 近くにいるのだ
それでもいつも 温かいのだ

白く騒然とした静寂の中で

「この絵には、まだ何かが欠けている」

画家は、小首をかしげながらパレットの中で絵の具を調合し始めた。
魔術師は、画家の後ろから覗き込むように、何かをつぶやきながら、絵の具に色のない魔法を溶け込ませた。
虹の真下で龍が流す涙のように、絵の具が奇妙な色に混じり始めた。
絵心のない画家から得体の知れない何かが生まれ始めていた。


猛然と進む
猪の持つ時計の中で
振り切れない振り子のように
オレンジ色の夜が光る
私は
騒然とした静寂の中で
揺ぎない不安に包まれる
それは何かわからない
わからないということ以外は
今は ポケットに入れておく
霊気に満ちた幽霊が
この夜をまた飲み込んで
駆けて行く
そして
騒然とした静寂の中で
揺ぎない不安を思い出す
わかってるんだよ
わからないということ以外は
けれども 何かが
まだ欠けている

ひねくれた空

魔術師は、善良な悪夢から覚めたまっすぐな朝の中を、
どこへとも続く、まっすぐにのびきった道の上を、ひとり歩いていた。
なぜか迷いながら、なぜか立ち止まりながら、なぜか空を見上げながら。
そんな魔術師が、道の途中で未知なる魔法を試してみると、
まっすぐな道の向こうがひねくれた空に変わった。
けれども、それ以上のことは何も起きなかった。

「天気雨をポケットにとどめておくことはできないんだ」

雲と雲がぶつかりながらはじけ飛ぶ、
雲の切れ目から新しい雲が出てはまたはじけ飛ぶ。
そんなひねくれた空を見上げながら、魔術師は歌いながら歩いていった。

澄み切った 濁り空から
止まない 天気雨が降る
それから
私は 空の地上絵の中を
90色の 絵の具を持ったまま
どこまでも どこまでも
飛んでいくんだ

満天の 真っ赤な青空から
止まらない 長い雨が降る
私は 空に浮かぶ地上絵の中を
90色の 絵の具を抱いたまま
永遠に 永遠に
夢見ていくんだ

動かない城

魔術師はどこへともなく、並木道という名の坂道を迷いさまよい、百獣の王もいないサバンナにたどり着いた。
シマウマの背中でくじを引いたり、話の長いテナガザルに捉まったりしながら。
そんな魔術師は、いない百獣の王の鬣に魔法の風を吹きかけた。
何も起きず、何も変わらなかった。
けれども、野生の王国から文明の国王が現れた。
「裸の王様こんにちわ」
魔術師の微笑に対し、王様はおかしいほどに無言だった。
魔術師のさし出した左手を置き去りにして、西の方角に動いた。
裸の王は野生の姿を保ったまま、滅びた文明を探すよう自分の城を探して歩き始めた。

優しい言葉を
敷きつめた
砂の道
野生には
もう二度と 
帰る 
気のない並木道
私は私の作った文明の中から
猫の作り出す影絵の中から
自然を見続けている
不自然に
続く 
木のない並木道
文明が通った 後の迷い道

間違えない間違い探し

魔術師は、あまりに複雑すぎて単純にみえる街角の途中を、冬と夏が入り組んで曲がってできた道の上を歩いていた。
すれ違う人の中から、本当の理解者を探しながら。
そんな魔術師が、ケーキに文字を浮かべるようにのん気に魔法を浮かべると、
街角の多すぎる街の人探しが間違いが多すぎる間違い探しに変わった。
けれども、それ以上のことは何も起きなかった。
「街角を全部丸くするほど簡単じゃないんだ」
鬼の角のように折れ曲がった街角の向こうに、魔術師は間違い探しという名のゲームに埋もれながら、道を間違えながら歩いていった。

間違いが多すぎる間違い探し
それはデタラメと呼ぶほどに
正解を探す方が 早いくらいに

間違いが多すぎる間違い探し
ゼロからやり直す方が 必要なほどに
どれだけ間違いが 多いのだ

間違いが多すぎる間違い探し
けれども 間違い探しをすることすら
もう疲れていたんだから
何かが間違っていた
それは ある人には正解で
それは ある人には間違いで
そんな間違い探しには
本当の間違いもないのだ
正解はただ探すこと
自分の 見つけるべきものを
わからないから 探すだけ

待ち人待ちきれぬ街

魔術師は、どこへ行くとでもなく、待ち人も待たない街の中を歩いていた。
思い思いのぼろぎれを身にまとった街の人々とすれ違いながら。
今日一日の運勢を占うように、魔法の方位磁石で行き先を占った。
方向はどこにも、示されなかった。全くどこにも。
けれども、思い思いの洋服が重い重い幸福に変わった。
「受け止めるには重すぎる」
鉛を含んだように靴底は重くなり、雨を飲み込んだように魔術師のコートが背丈よりも長くなっていた。
彼は重い決意を着込んだように、待ち人も待たない街の中の一つの道を、歩いていった。
思い思いの幸福へと続く道を。

思い思いの幸福と
自分の中の 思い過ごし
ここでは待ち人も
待ちきれないのだ
この寂しい 大地の上では
待つには 長すぎるし
待たなければ より寂しい
去り際までも 笑ったまま
過ぎ去っていく
この短い 球技の中では
歩くには 短すぎるのだ
それを どう思おうが
それを 何と言おうかな

心絵日記

魔術師はどこからともなく、頭に辞書をのせながら夜の上を綱渡りしながらやってきた。
難しい熟語を暗記したり、架空の四文字熟語を作ったりしながら。
そんな魔術師が999ページの24行目に魔法を挟み込むと、
頭の辞書が心の日記に変わった。
けれども、それ以上のことは何も起きなかった。
「どっちにしろ言葉からは逃れられないというわけだ」
言葉の海におぼれるようにして、魔術師は夜明けを目指して綱渡り的に歩いていった。

心の絵日記を
読みたい人が
無数にいて
けれども 同じほど
読まれたいと 願う人も
無数にいて それでいて

愛されたいと 願うなら
それなら自分はどうだろう
自問自答のリズムの中で
それなら自分はどうだろう
自分は 自分は 自分は
人に 何を あげられる
小さな愛や 小さな勇気
そんな 何かなのか
小さな希望 小さな冒険心 
小さな春
そんな大きなものが
たった 一人にだって

愛されたいと願うなら
願うだけでは叶わない
それでもなお
きっと だからなお
愛されたいと願うだろう
今 誰かが願っているように
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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
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今日も散らばって行こう
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「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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