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裸足の靴音

魔術師は、絶望の夜に降り注ぐワインのように、喜怒哀楽の交じり合って降る雨の中からやってきた。
野良猫の蹴飛ばした長靴が、鉄の意志を受け継いだ磁石のように、魔術師の後をコツコツと着けていた。
魔術師は真実のリトマス試験紙を試すように、雨に魔法を浮かべると、心の隙間にワインの波が訪れるように、猫の姿が揺らぎ始めた。
長靴を脱いだ野良猫が裸足を履いたシャムネコに変わった。
けれども、それ以上のことは何も起きなかった。
「1000年の生活より一日を選ぶほど簡単じゃないんだよ」
猫も履かない長靴を履いて、魔術師は陽だまりにも似た水たまりの上を陽気に駆けていった。

今日は裸足で駆け出して
胸の靴音響かせて
駆け足で 駆けていく
涙まじりに 飛び出して
今日は裸足で駆け出して
けれども 靴紐解け出して
駆け足で逃げていく
声もなくした 鳴き声で
今日は裸足で駆け出して
胸の靴音響かせて

心の鼓動

魔術師はどこからともなく、どこからともなく、どこからともなくやってきた。
毒々しい烏の放つ言葉の包囲網から逃げ惑いながら。
風をなくしたヨットのように、交わらないクロスワードのように歩いていた。
そんな魔術師が言葉の網の中に小さく魔法を投げ込むと、
カラスの鼓動がガラスの心に変わった。
けれども、それ以上のことは何も起きなかった。
「僕の魔法が誰かを助けるなんてことはないんだよ」
折りたたんだ黒い傘のように縮まった。
それから、傷心の翼を広げるようにして魔術師は飛び立とうとした。
けれども、彼には翼はなかった。

もしも言葉に 心がなくなっても
単語のように 冷え切っても
傷つかないほどに
心をなくしたくはない
それなら心を 痛めていたい
痛みを心で 感じていたい
傷ついている時の方が
思慮深くなれるのだから
もしも最初から 心がなくっても
私が私でないと わかっても
傷つかないほどに
心をなくしたくはない
それなら心を 痛めていたい
痛みを心で 感じていたい
傷ついている時の方が
思慮深くなれるのだから

ゴミくずの三日月

魔術師は夜遅くに訪れた夜の中、闇に汚れた街の中を歩いてた。
角ばった街角のコーナーフラッグにつまずきながら。
そんな魔術師が、汚れた街のプラネタリウムに糸くずほどの魔法を浮かべると、
ゴミくずの土ほこりが星屑の月明かりに変わった。
けれども、それ以上のことは何も起きなかった。
「ゴミなんて幻にすぎないんだ」
ゴミほどにちっぽけな月明かりを、宝物のように胸に抱きながら、魔術師は透明な街角をゆっくりと曲がっていった。

三日月の
飛び交う街の
薄明かり
明日を照らす 薄明かり
ステルスな人間を
生身の機械に 変えていく
三日月の
飛び交う街の
並木道
明日へ続く 並木道
いない誰かの 歩く道 

転がらない丘

魔術師は、うさぎも希望も駆け上がる丘の上を駆けていた。
逃げもしない鬼と鬼ごっこをしながら。
そんな魔術師が、丘の上から魔法を転がすと、
鬼の金棒が妖精のチョコ棒に変わった。
けれども、それ以上のことは何も起きなかった。
「チョコに魔法を溶け込ませるほど簡単じゃないんだ」
鬼の角をチョコ棒にすり替えるように、魔術師は優しい眠りにおちていった。

オレンジ色の丘の上
お菓子と風と
隣には 横顔
楽しいほどに 明日からは
また明日からは 逆戻り
楽しい時は 短くて
また明日からは 長い闇
お菓子と陽射し
隣には そして
楽しい秋は 短くて
また明日からは 長い冬
転げてみればよかったね
楽しく せつなく もどかしく

第九ボタン

魔術師はどこからともなく、陽気な森の中から天使と待ち合わせしたり、悪魔と鉢合わせしたりしながらやってきた。
そんな魔術師が、古い鞄を開いて新しい魔法を取り出すと、
天使の第二ボタンが悪魔の第三倉庫に変わった。
「簡単どころか最悪のことだ」
気がつくと、魔術師はすっかり悪魔の倉庫の中に閉じ込められていた。
悪魔の倉庫らしく、窓も笑顔もなかった。
「せめて第四だったら良かったのに・・・」
魔術師は、弱音をはきながら絶望にくれていた。
倉庫のまばゆい暗闇が、弱気を盛り立てているようだった。
・・・

魔術師は悪魔の第三倉庫の中で、悪い夢を見たり見なかったりしながら、一晩を眠りに費やした。
そして目覚めた時、魔術師の中で、頑ななドアを開く魔法の鍵も目を覚ました。
針の穴に魔法を通すように、魔術師は鍵穴の中に魔法を送り込んだ。
静寂と闇が悪魔の倉庫から逃げ出していくのが感じられる。
頑丈な門は消え去り、どこからともなく幻獣の獏がやってきた。
「どうも。こんばんわと言っておこう」
魔術師は悪い夢のかけらを獏に投げつけながら、暗い倉庫を後にした。
獏も食べない夢の残骸が、一時の間地面に落ちて残っていた。

口もあけずに食べつくす
言葉の嘘と むなしさを
何も告げずに飲みつくす
言葉のとげと 真実を
扉も開けずに入り込む
心の秘密の中にさえ
真っ赤なうそを 真っ青の赤で
包み込んで
ゆっくり 自分になりすます

空のぬり絵

魔術師はどこからともなく、風を味方につけたり敵に回したりしながら、海の作り出す風景と物語と永遠の風の中からやってきた。
亀の機嫌をうかがいながら、昔話を聞かせながら。
そんな魔術師が、空に手を伸ばし蛍をはなすように魔法を浮かべると、
海の絵本が空のぬり絵に変わった。
けれども、それ以上のことは何も起きなかった。
「空を空っぽで満たすなんてできないんだ」
小首を傾げる亀と、絵の選択を相談しながら、魔術師は水平線の上を歩いていった。

いつかまた
あの日の空を 思い出す
今日がいくつ 過ぎ去っても
あの日の空の 広がりを
あの日の空の 明るさを
あの日の空の 空色を

いつの日か
あの日の空も 薄れゆく
昨日が今日を 追い越して
あの日の空の 広がりも
あの日の空の 明るさも
あの日の空の 空色も
眠ったままで 消えてゆく

いつかまた
見えない声に 振り返り
あの日の空を ぬりかえる
今日が明日を 追い抜いても
空はまた 変わりゆく
だからまた
あの日の空に たどり着く
あの日の空を 思い出す

帰れない帰り道

魔術師は、天まで届く階段もない森の奥から、借りてきた猫に追いかけられながらやってきた。
猫は何食わぬ顔で、地獄の釜の飯を食い始めた。
けれども、魔術師が地獄の釜の底に山びこをすべりこませるように、魔法を送り込むと、借りてきた猫は返し忘れたライオンに変わった。
ライオンは、何食わぬ顔で天国のパンケーキを食べていた。
「僕にも少しわけてくれるかな?」
魔術師と魔術師の歌う歌を乗せてライオンは帰って行った。
忘れ物を取りに行く
天国からの帰り道
無口なイルカと すれ違う
干からびた水路の中を
招きライオンに 連れられて
忘れ物を取りに行く
まだ帰れない 帰り道


冬のカエル

魔術師はどこからともなく、夜の残党に疑問を投げかけながらやってきた。
遊ばない働き蜂に追いかけられながら、蜂蜜をなめながら。
そんな魔術師が、指先で闇の言葉を作り、口先で闇の呪文を語れば、
庭の植え込みのトカゲが、冬の冷え込みのカエルに変わった。
けれども、それ以上のことは何も起きなかった。
「野良猫の気持ちを言葉に置き換えるほど簡単じゃないんだ」
ワインに酔ったライオンのような目で、一瞬カエルを見つめた。
朝の弾くオルガンの調べに乗っかって、魔術師は歌うように飛び跳ねていった。
帽子も飛ばない風の中を
夜を越えて流れていく
寒空に張り付く泣き虫みたいに
言葉の壁も飛び越えて
水色カエルが飛んでいく
雨も風も気にならない
サイコロもダルマも打ちとけて
風船の踏むタップのように
おはようのドアも飛び越えて
水色カエルが飛んでいく

鶴の翼

魔術師はどこからともなく、鼻歌交じりの粉雪の舞う季節の中からやってきた。
森の狼の放つ鋭利な言葉の刃物を、丸まった日の光に包み込みながら。
そんな魔術師が、ちっぽけな呪文を小手先の技術で転がせば、
亀の万年筆が鶴の便せんに変わった。
けれども、それ以上のことは何も起こらなかった。
「天国に手紙を届けるほど簡単じゃないんだ」
魔術師はさっそく、小鬼の悪戯をたしなめる赤鬼の眉間のように、
しわのよった便せんに天国の手紙をしたためた。
それは鶴の翼そのものとなって、どこへともなく飛んで行った。

もしも僕のちっぽけな魔法が
今よりもっとちっぽけで
今よりもっとつまらなくなったら
その時は笑っていられますように
無風の風が無慈悲な夜より
魔法のかけらを運んでくるように
上の空で僕のそばで
見守っていてください
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junsora(望光憂輔)

Author:junsora(望光憂輔)

おかしな比喩を探し求める内に
いつしか詩を書きはじめました
たいした意味などありゃしない


旅の途中の紙くずたち
今日も散らばって行こう
いつも破り捨てられても

猫と婆とそんな横顔はリンクフリー
「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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そんなカテゴリー
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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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