秘密の自転車
2007-08-25 Sat 12:12
友達が新しい自転車を買うというので、
僕は自転車を譲ってもらうことにした。
見かけからして古びた自転車は、
乗ってみるともっと、すごかった。

真っ直ぐ前に進むことができないのだ。


 「ちょっと、キミ!
 「確認させてもらうよ……」

 「だから、もらったんですよ!
 「拾ったんじゃなくて」


初乗りから暗雲が立ち込めていた。
そして、それは毎日のように……。


 「コラッ、キミ!
 「そんな乗り方したら危ないだろ!」

 「僕だって、
 「真っ直ぐ走ろうとしてこれなんだよ!」


精一杯真面目に進んでいるのに、
ふざけているように思われるのは心外だった。
次の日も……。


 「オイッ、キミ!
 「ふらふらじゃないか!」

 「だから、酔ってなんかないって。
 「こういう自転車なんだって」


もう僕は、いちいち反論したり、弁解したりするのが面倒くさくなってきた。
いいじゃないか、人からどう見えようと……。
今度は、もう止まらないぞ。


 「オーイ、コラッ! そこ、止まれ!」


僕は止まらない。


 「待て、止まらないと撃つぞ!」


もう、止まらない。


僕の背後から、銃声が響く。
二発、三発、乾いた音……。


 BAN! 
  
    BAN! 

           BAN!


けれども、僕は自転車を止めない。
自分の意志で進み続ける。

ついには前からも、駆けつけた警官が銃を向けて、
僕の新しい古びた自転車に向けて、発砲する。


 BAN! BAN! BAN!

    BAN! BAN! BAN!

       BAN! BAN! BAN!


100億のコインのように容赦なく乱れ飛ぶ銃弾の中を、僕はナチュラルなジグザグ走行で走り抜けた。


      BAN! BAN! BAN!

             BAN! BAN! BAN!

                    BAN! BAN! BAN!

          ☆              ☆                       ☆

      BAN! BAN! BAN!

                    BAN! BAN! BAN!

                               BAN! BAN! BAN!


もうすぐ、僕は飛ぶだろう。
普通の自転車じゃなくて、ほんとに良かった。









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休日
2007-07-24 Tue 21:41
「休日は休みにします」
「休むんですか? 休まないんですか?」

「休日は休みにします」
「休むんですか? 休まないんですか?」

「休日は休みにします」
「休むでいいんですよね?」

「休日は休みにします」
「つまり、休むんですか? 休まないんですか?」

会話は休むことなく続いた。


僕は思い切って、休日を休むことにした。

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六月の風船
2007-06-07 Thu 21:31
病院で悟空は空を飛んでいた。

「いつからあんなに飛べるようになったの?」

「成長したんさ」


「人間ってそんなに変わるもの?
 私たちは日々悪くなっていく気がする」

「宇宙人なんだよ」


「宇宙人っていいな〜
 あんなに人間に似てるのに…」

   *    *    *

赤信号が夜の歩行を停止させている。

「高い、たかーい!」

父親が嬉しそうに、赤ん坊を抱きながら星を見せている。
赤ん坊は、母親の手先から伸びている風船に惹かれているようで、届かない手を必死で振る様はまるでバイバイしているように見えた。

「そんなに高くもないのにな。 本当は」

青信号が夜に許しを与えて、私たちは歩き始めた。

「私もあんなだったのかな?」

「誰もがそうよ」

   *    *    *

ようやく、お好み焼きはできあがりつつあった。

「あんた、何が欲しい?」

「何もなくなっちゃった……
 何もいらないよ」

降水確率は80パーセント。
明日は、一日中雨らしかった。
それでも私は、残さずに食べた。
店を出ると、降り始めの雨の匂いが立ち込めていた。

   *    *    *

大事な話の続きが夢の中にあったけれど、朝は冷酷な試験官のように慈悲の欠片も見せなかった。
それでも私は、懇願するように大事な一日の栄養素と引き換えに朝を待たせた。
そうして朝がぎりぎり枯れてしまうほどになった頃に、口数も少なく玄関へ自分らしき形のようなものを運んだ。
靴にはなぜか風船が括り付けてあって、私はそれを手に取ったまま駆け出した。
天気予報は見事にはずれ、朝からあり得ないような天気だ。
大きく膨らんだ風船に「元気玉」と書いてあるのを見つけて、私はおかしくなった。
空に見せびらかすように、持ち上げると風がそれを欲しがった。
交差点の真中に差し掛かったところで、私は風のリクエストに応えて風船を手放した。
六月の風が楽しげに手招きすると、風船は私を離れて空高く舞った。
高く高く舞って、遠く遠く、どこまでも遠くへと飛んで行った。
本当に、どこまで行くのだろう?
どこか見知らぬ街で、あるいは異国の土地で、誰かがまるでドラマのように偶然見つけたりするのだろうか……。

「ありがとう……」

誰にも聞こえない声で、さよならを言った。



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