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別れの宝石

土砂降りが突き刺すピッチの上で、キッカーは宝石を置くようにボールをセットした。前には壁が4人、5人、冷え切った焼け石のように立ちふさがる。
「これが最後のゴールになるんだ」
キッカーは、白い砂を踏むように2、3歩の助走をつけると、左足を鋭く振りぬいた。壁は一切邪魔をしなかった。むしろ進んで道をあけたようさえ見えた。
ゴール右隅に吸い込まれそうなボールに、キーパーの反応した指先が届く。
けれども、涙が目からこぼれおちるように、キーパーの手からボールがこぼれおちた。そして、キーパーは本当に泣いていた。
キッカーも、他の皆も、空と同じように泣きじゃくっていた。
土砂降りの雨が、まるで思い出までも洗い流すように降り続く。
それは、一段と激しさを増していくように思われた。
けれども、雨の音に混じって、終わりを告げる笛が鳴った。
あまりにも、遠く、過去からあるいは空の上から聞こえてくるようだった。


土砂降りのピッチの上で
地球を追っかけまわす
ぼくらは
子犬の気持ちを理解する
濡れ衣を着せられたように
ずぶ濡れで なのに罪はない
あるのは 別れ
それは別れの雨でもあった
けれども弱音ははかないよ
ここは外なんだから
ぼくらは外に飛び出したんだ
気持ちが震えるように
ネットを揺らしたかったんだ
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終着駅

キッカーは宇宙の車窓から星を眺める旅人のような横顔で、気持ちを置くようにボールを置いた。
5枚の壁、電車を待つ人垣のような壁が、立ふさがる。
そして、ゆっくりと我先にとキッカーに向かって近づいてきた。
主審の笛が、はやる乗客の心をなだめるように壁を下げさせた。
キッカーが左足を振り抜くと、ボールは超特急のような優雅さでトンネルを潜るように壁の間を突き抜けてゴールに向かった。
その時、キーパーは切符を確認しようとする車掌のように片手を伸ばした。
けれども、それより早くボールはネットを揺さぶっていた。それがボールにとっての終着駅だった。
車掌は何かに乗り遅れた課長のように、その場に膝をついた。
キッカーは、両手を広げ有頂天になって駆けずり回った。
空は馬鹿みたいに晴れ、彼は空と一緒にばかな気分に浸っていた。
銀河列車が駆け抜けた後のように、空がきれいだった。

忍者の駆ける空

忍者の身を隠すように、雲がピッチの上を冷たく覆いつくす中、
キッカーはフレンチトーストを食べる侍のような横顔で、刀を置くようにそっとボールを置いた。
侍の前には5枚にも8枚にも見える人間の壁が、立ふさがった。
それは、忍者の作るお菓子でできた忍者屋敷のような壁だった。
忍者自身でさえもよじ登ることが不可能なような、高く粗末な壁。
そして、ゆっくりとキッカーの前に忍び足で近寄ってくるのだった。
キッカーは、3歩の助走をつけるとかまわず左足を振りぬいた。
ボールは侍の投げる信念の通ったダーツのように、地を這うようなスピードで忍者の壁をすり抜けた。
忍者のボスがゴール前に現れる。
瞳の中で、忍者の投げる手裏剣が回るように、魔法のかかったボールが渦巻いていた。
両手を広げたキーパーは、とっさに水団の術を繰り出したが、ゴール前ではまるで関係なかった。
ゴールはネットに突き刺さった。
キッカーは喜びのあまり空に拳を突き上げると、雲の子を散らすように雲が逃げ出していった。
そして、忍者が隠した宝物が現れるように青空が現れた。
今や空は馬鹿みたいに晴れ、彼は空以上に馬鹿騒ぎをしたかった。
忍者が駆けていく海のように、空がきれいだった。

街角の魔法

キッカーはワインの海で暮らすソムリエのような横顔で、猫を拾うようにそっとボールを置いた。
男の前には5枚の壁が立ち塞がる。それは人間の壁だった。
彼は、2、3歩の助走をつけると勢いよく左足を振り抜いた。
魔法がかかったボールは三丁目の角を越えていき、帽子をかぶった泥棒を一人捕まえた後、7丁目の朝日にぶつかると、帽子をかぶって戻ってきた。
そして再び5枚の壁の上を越えていく途中、帽子だけは落とし、壁の一人の頭に納まった。
ボールは急激に曲がり落ち、ゴールの右サイドネットに突き刺さった。
その間、キーパーは一歩も動けなかった。
キッカーは喜びのあまり空に向かって、拳を突き上げた。
空は馬鹿みたいに晴れ、彼は空よりも馬鹿になりたい気分だった。
翼がなくても飛べそうなほど、空がきれいだった。

透明周波数

水色の透明人間のような横顔で、キッカーはボールを置くと、
ストリートギャングがトカゲの尻尾を振るように、左足を振りぬいた。
地球によく似た形をしたボールは、雲を切り裂くような、
音を立てて回転し、空高く舞い上がりみえなくなった。
キーパーは心の周波数を受け止めるファーストミットのような構えで、
落ちてくるボールを待ち受けていた。
信号のない交差点で信号を待つ7月うさぎのようだった。
ボールは落ちてくることはなく、そればかりか雨が降ってきた。
雲ひとつない空から落ちてくる土砂降りの雨のようだった。

飛べない箱

飛べない跳び箱を見上げるうさぎのような横顔で、
キッカーは、割れないクス玉を蹴飛ばすように左足を振り抜いた。
どこかの惑星に似た形をしたボールは、
ギザギザの言葉が回転するような音を立てて飛んでいき、
心のゴールに光のように突き刺さった。
彼はうれしさのあまり空を仰いだ。
それは心奪われるような空だった。
そして彼は完全に心を奪われていた。
こんな空を見たことはないとずっと思いながら、走り続けていた。
終わらないマラソンのゴールのようだった。


夕陽の右隅に

鬼その人のような門番が立ち塞がるゴールを見据え、
未熟な完熟トマトのような穏やかな横顔でボールをセットすると、
キッカーは青い紅葉をひまわりに振りかけるように、
左足を降りぬいた。
地球にとてもよく似た形をしたボールは、鋭く回転して、
三銃士が仲間割れする剣のような音を立てて、
柿色の空に舞った。
やがてボールはゆっくりと落ち、キーパーが夕日に見とれている間、
心に吸い込まれるようにゴールの右隅に吸い込まれていった。
空は馬鹿みたいに柿色に染まり、
彼は、夕日そのもののようにはしゃいでいた。
その目も夕日色に染まっていた。

空より天気雨

土砂降り天気雨を見ているような横顔で、
どこにも飛べないジャンプ傘を振るように
キッカーは左足を振り抜いた。
ボールは勢いなく上に飛んでいき、飛ぶ鳥を落としていった。
キーパーが鳥をキャッチしている間に、
鋭く落ちたボールは、心の真ん中に直接突き刺さった。
空はばかみたいに晴れ、彼は空よりもばかみたいになって喜んでいた。
そして、そんな自分の横顔に戸惑いを覚えた。

三日月ホットケーキ

冬の真ん中に、自分を偽る牛のような嘘っぽい横顔で、
キッカーはボールを置いた。
冷たいホットケーキの上で踊る手品師のように、
左足を振り抜くと、地球によく似た形をしたボールは、
まるで魔法がかかったように迷いながら空に舞った。
自由を恐れるかのように金魚と遊ぶか、金魚を救うか迷っていた。
ボールは杏色だった。
三日月色のハートが回転するような音を立てて、
やがておにぎりのように急降下して、
心のゴール左隅に哀しみが晴れたように突き刺さった。
彼は空に向かって手を振った。
空はばかみたいに晴れ、彼は空よりもばかになっていた。
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今日も散らばって行こう
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「喜多さん、いいとこばっかじゃねえか」

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『ウィキペディア』












































 

「行き先のないバスに乗って
 あてのない旅をしています」

「僕たちは心の旅をまだ
 始めたばかりなんです」



「この場所は自由な場所。
 本当に自由すぎる」
「でもまだ足りないんです」





「春の足音を、
 しばらく前に、聞きました。
 私はもうとけてゆきます」
「大いなる誤解が
 とけていく速度で…」






『落書き』

偶然たどり着いたこの場所
あなたは何を探していたのです

求めるものと目の前にあるもの
それはどれほど違っていても
みかんの色は変わるのです

あなたという存在が
あなたを囲む海や人や森が
歌い励まし騙し傷つける頃
空想の世界の中で
生まれ変わるならば
いつかそれは
求めるものと同じであったか
近づいていくこともあるのでしょう

偶然目に触れた落書きに
こんなことが書いてあるとは
思わなかったでしょう
だからそれを望んで
これを書いたのです

少し時間を
無駄にさせてしまったね






『空白の壁ときみ』

壁が空いているから
ここを詩で埋めようかな

何も書くことはないけれど
何もない時だって
詩を書いていいんだよ

何もなくても
聴きたいときがある
きみの声を

点滅するバスは
行き先を決めかねているけど
もう詩は出発したよ

年中融けない雪だるまが
上で見てるんだ
これでまた融けにくくなった

壁が空いているから
サンドイッチのない詩を
猫に内緒で書いてる

見つかると嫉妬するからね

寝静まった頃静かに書いて
きみもやっぱり静かに読む

見知らぬきみ
またここで落ち合おう

きみの空いてる時間にね






『そんな横顔』

獣のような 大声で
どこかで 叫んだケダモノ
気高さを保ったまま
毛玉を嫌う ケダモノ
そんな生き物が いるのだろうか

僕らは 
不思議な生き物を見るような目で
不思議な生き物を眺めるんだ

1000年前から生きてるみたいに
落ち着いて 慌てない
何でも知ってるような
そんな横顔で
質問には 答えることもない

それでも 僕らは
昨日生まれた ばかりのような
そんな横顔 してたんだから
不思議な生き物 眺めるような
そんな横顔 してたんだから






『片隅』

ノートの片隅に
詩を書いている
誰に見せる
あてもない

頭の片隅に
詩を留めている
未だ現れる
気配はない

カフェの片隅で
詩を書いている
誰に会う
約束もない

世界の片隅で
詩と向き合っている
そうしていると
寂しくもない






『できそこない道』

完成することのない
できそこない道を
僕は歩いている

進んでいるのか
戻っているのか
それさえわからない

それでもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている

つまずくことばかり
挫けることばかり
たどりつくこともない

どこにもかえれない
できそこない道を
僕は歩いている






『なきうた』

理由もなく
泣きたくなるのです

二月が終わる頃になると
遥かなる距離を越えて
オレンジの光が
届いたのを知った時

理由もなく
泣きたくなるのです

小さな息吹が
青白い風の中に
溶け込む匂いを知った時

私は生まれるよりも
遥か前のことを
思い出しながら

理由もなく涙を流し
歌わねばならない
という理由において
歌うのです

遠い過去の人である
私の声が
あなたの元へ届く日を
想像したりしながら
























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